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心の工房へようこそ

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少年はある朝、頬を伝う涙で目を覚ました。


少年は、少女に好意を抱いていた。
その無垢な笑顔の少女に惹かれていた。

少年は多くを望みはしなかった。
ただ彼女の笑い声が健やかに
響き渡るのを聞いて、どこか安心していた少年は。

夕暮れの緋色に染まる広い部屋。
そこにたたずむのは一人の少年。
その心はとても澄んでいてその瞳は、
大きく、遠いものを見つめていたように思う。

その時はやがて過ぎ去り
広い部屋は薄暗くいつもと
変わらない静かな部屋だった。
その空間へ少女はやってくる。
その瞳に涙を浮かべて。

少年は胸が苦しくなった。
なぜ泣いているのかわからなくて
千切れるほど締め付けられた。
「なぜ泣いているの?」
少年には聞けるはずもない。

少女は帰り支度をはじめる。
扉を開け、部屋を出ようと足を踏み出して
少女は落ち着かない呼吸で
そっと囁く。
「お幸せに・・・」
少年にはその意味がわからなかった。

無性に怖くなった少年は、凍りついた身体に
鞭打って走り出した。
懸命に追うもその距離は開く一方で
縮まらなかった。

縮まらないこの距離が
心の距離に見えた。
近いのに遠く感じたり
あまりに遠くに感じたり。

駆け出した少年が2階のテラスから
見下ろし辺りに目をやると
そこに少女はいた。
先ほどまで浮かべていた
涙など最初からなかったかのように
胸の奥にしまいこんで、笑っていた。

少年はこみ上げる気持ちを
飲み込んで駆け出す。
離れたくない一心で。

少女は、知らない他人と
肩を並べ行ってしまった。

少年の胸は空白になった。
いろんな何かがこぼれ落ちた。

それが何なのか少年にはもうわからない。
理解するのに必要な、紐解くのに必要な
すべてを失ったのだから。

ただ少年にもわかることがひとつだけ
のこっていた。

彼の視界を歪ませる涙。
彼に残った最後の希望。

その喪失感が溢れ出し
頬に一筋の流れをつくる。


少年は、少女の夢をみていた。


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